複数店舗を運営する企業の担当者様や、日々の店舗運営を担う店長であれば、「ABC分析」という言葉を一度は聞いたことがあるかもしれません。
しかし、その重要性や、具体的な実践方法、飲食店経営における活用メリットを十分に理解しその価値を実感できている方は少ないのではないでしょうか。
この記事では、ABC分析の基礎知識から、飲食店経営における活用方法までを詳しく解説します。
あわせて、ABC分析の具体的な実践方法もご紹介しますので、効率的な店舗運営と収益アップを目指す経営者や店長はぜひ最後までお読みください。
ABC分析とは?本当に必要?
ABC分析は売上や利益などを基準とし、商品やサービスをA・B・Cの三つのグループに分類する分析方法です。
「売り上げの8割は全体の2割の商品で生み出している」という考え方であるのパレートの法則(2:8の法則)を基に生み出された分析方法で、売れ筋の商品を把握することができます。
ABC分析は売上アップや在庫管理、顧客満足度向上に役立ち、飲食店経営が現代の市場環境や競争激化に対応するための重要な指標です。
ABC分析の必要性について、「売上アップ・在庫管理とコスト削減・顧客満足度向上」の3点からそれぞれ詳しく解説していきます。
売上アップに直結するABC分析
ABC分析は、飲食店の売上アップに直接的に貢献する有効な手段です。
売れ筋のAランクメニューを特定することで、そのメニューのプロモーションを強化したり、原価率を改善するなどの戦略を立てられます。
さらに、Cランクの不人気メニューを特定し、改善や廃止を検討することで、メニュー構成を最適化し、お客様にとってより魅力的なラインナップを提供できます。
在庫管理とコスト削減に貢献するABC分析
適切な在庫管理は、飲食店経営において非常に重要であり、ABC分析はこの分野で大きな効果を発揮します。
Aランクの食材は在庫切れを起こさないように管理し、Cランクの食材は発注量を抑えることで、過剰在庫による食材ロスやキャッシュフローを円滑に保てます。
これにより、保管スペースを有効活用し、鮮度を保ったまま食材を提供できるようになり、結果として食品廃棄ロスを減らし、原価を抑制することにつながります。
顧客満足度向上にも繋がるABC分析の視点
ABC分析は単に売上やコストの改善だけでなく、顧客満足度の向上にも繋がります。
例えば、Aランクのメニューはお客様からの支持が高いことを意味するため、これらの人気メニューの品質維持や提供スピードの改善に注力することで、リピーターの獲得に繋がります。
また、Cランクメニューは、ただ廃止するのではなく、お客様の意見を取り入れて改良したり、期間限定メニューとして再登場させたりすることで、期待に応え、新たな価値を提供することも可能です。
ABC分析のA・B・Cをそれぞれ解説
ABC分析により「売れ筋の商品」を把握することができるため、売上アップのための施策を立てやすくなります。
飲食店では、特にメニューや食材の売上分析に活用され、効率的な経営を進めるための強力な指標となります。
ここからは、ABC分析の「A・B・C」について、それぞれ解説していきます。
ABC分析のAランクとは?
Aランクは、全体の売上上位約70%までに位置する「最重要商品」グループです。
これは、店舗の収益の大部分を支える、いわゆる「売れ筋商品」にあたります。
Aランクのメニューや食材は、常に品切れを起こさないように徹底した在庫管理を行い、品質維持にも細心の注意を払いましょう。
また、積極的にプロモーションを展開し、お客様に選ばれ続けるための戦略を立てることが重要です。
ABC分析のBランクとは?
Bランクは、全体の売上上位約70%〜90%までに位置する「中堅商品」グループです。
このグループには、Aランクほどではないものの、安定した人気があり、成長の可能性を秘めた商品が含まれます。
Bランクの商品は、Aランクに昇格させるための施策を検討するのがおすすめです。
例えば、提供方法の改善や、関連メニューとの組み合わせ提案などを行い、さらに売上を伸ばす工夫をしてみましょう。
ABC分析のCランクとは?
Cランクは、AランクにもBランクにも属さない残りの「改善・見直しが必要な商品」グループです。
このグループの商品は、売上貢献度が低く、場合によってはコストの無駄を生み出している可能性があります。
Cランクの商品は、単に廃止するだけでなく、なぜ売れないのかを深く分析することが大切です。
レシピの変更、価格の見直し、あるいは期間限定メニューとして再提案するなど、改善策を検討するか、提供を中止するかの判断を行いましょう。
飲食店でABC分析を実践する前の準備
飲食店でABC分析を実践するには、分析の土台となるデータを正確に収集し、活用できる形に整えることが重要です。
具体的には、過去1ヶ月や3ヶ月の売上データを集め、分析対象となるすべてのメニューやドリンクをリストアップします。
POSシステムや手書き伝票など、店舗の状況に応じた方法で効率的にデータを取りまとめましょう。
ここでは、ABC分析を効果的に行うための具体的な準備と分析方法を詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
売上データの取りまとめ方
売上データを取りまとめる際は、各商品の「販売数」と「単価」を正確に把握することがABC分析の精度を高めるうえで非常に重要です。
POSシステムを利用している店舗であれば、商品ごとの販売実績レポートを簡単に抽出できるため、効率的にデータを収集できます。
手作業で集計する場合は、日報やレシートなどを基に、商品名、販売数、売上金額を丁寧に記録しましょう。
このデータによって分析結果が大きく変わるので、記入ミスがないように注意することが必要です。
商品データの分類と整理
分析精度を高めるには、商品データを適切に分類・整理することが重要です。
例えば、「フード」「ドリンク」といった大分類に加え、「パスタ」「ピザ」「ビール」「ワイン」といった中分類、さらに具体的な商品名へと細分化します。
分類によって分析の精度が上がり、具体的な施策も検討しやすくなります。
特にメニューの種類が多い場合は、カテゴリー別に整理すると分析作業を効率的に進めることができます。
エクセルを使ったデータ入力のポイント
ABC分析にPOSシステムを使用しない場合は、エクセルを使えば手軽にデータ管理を始められます。
収集した売上データをエクセルシートに整理して入力しましょう。
具体的には、列に「商品名」「販売数」「単価」「売上金額」などの項目を設定し、行に各商品のデータを入力していきます。
入力ミスを防ぐため、数値は半角で統一し、エクセルの数式で自動計算する工夫も有効です。
ABC分析の具体的な手順と計算方法
データの準備が整ったら、いよいよABC分析の具体的な計算に入ります。
主に「売上金額」を基準に分析を進めるのが一般的ですが、必要に応じて「粗利額」など他の指標を用いることも可能です。
以下の手順で、各商品の累計構成比を算出し、ABCのランク分けを行いましょう。
商品の累計売上構成比の算出
累計売上構成比とは、売上の高い商品から順に売上割合を積み上げ、全体売上に対する割合を示すものです。
まず、商品ごとの売上金額を計算し、降順(売上の高い順)に並べ替え、各商品の売上金額が全体の売上金額に対して占める割合(構成比)を算出しましょう。
例えば、全体の売上が100万円で、ある商品の売上が20万円なら構成比は20%です。
売上金額の高い商品から順に、その構成比を足し合わせていくことで「累計売上構成比」を算出できるので、例えば、1位の商品が売上構成比20%、2位の商品が15%であれば、2位までの累計構成比は35%となります。
この累計構成比がABCランクを決定する際の重要な指標となります。
ABCランク(A・B・C)の基準設定と分類
累計売上構成比に基づき、商品をA、B、Cの3つのグループに分類します。
一般的な基準としては、累計構成比が70%までの商品を「Aランク」、70%超から90%までの商品を「Bランク」、90%超から100%までの商品を「Cランク」とすることが多いです。
この基準はあくまで目安のため、自店舗の状況や分析目的に応じて柔軟に設定しましょう。
飲食店がABC分析を行う上での注意点
ABC分析は飲食店の経営を改善する非常に有効な指標ですが、その実施にあたってはいくつかの注意が必要です。
これらの注意点を理解し、適切に運用することでABC分析を経営に最大限活かすことができます。
売上以外の要素も考慮して分析する
ABC分析は売上高を基準に行うことが多いですが、それだけで判断するのは危険です。
例えば、売上は低くても粗利率が高い商品や、来店頻度を高める「客寄せ」効果のある商品も存在します。
そのため、売上高だけでなく、粗利益率、原価率、提供時間、さらに顧客の感想といった複数の視点から総合的に評価することが重要です。
これにより、商品の価値をより深く理解し、多角的な経営判断を行うことができます。
定期的な分析とデータ更新の徹底
飲食店のトレンドや顧客ニーズは常に変化するため、ABC分析は一度行って終わりではなく、定期的に実施することが重要です。
例えば、月に一度や四半期に一度など、一定のサイクルで分析を行い、最新のデータに基づいて店舗の状況を正確に把握しましょう。
新しいメニューの導入や季節限定商品の提供後など、店舗の状況が変化した際には、速やかに分析を更新することで、常に最適な経営戦略を維持できます。
分析結果を具体的な施策に繋げる運用
ABC分析の真の価値は、その結果を具体的な経営施策に落とし込むことにあります。
分析で得られた「Aランクの強化」「Cランクの見直し」といった方針を、具体的な行動計画に落とし込みましょう。
例えば、Aランクメニューの食材の仕入れ量増加、提供スピード改善、プロモーション強化などが考えられます。
分析結果を単なるデータで終わらせず、常に「次の一手」を考える習慣が持続的な成長には欠かせません。
正確なデータをとる
ABC分析の精度は、データの正確性に大きく関わるため非常に重要です。
不正確なデータに基づいて分析を行うと、誤った経営判断を導き出すリスクがあるため、注意が必要です。
日々の売上データ入力ミスや在庫計上の誤り、商品コードの重複などが、分析を歪める原因となります。
まとめ|飲食店のABC分析とは?重要度と分析方法
ABC分析は、飲食店の経営を飛躍させる強力な指標です。
この分析法は経験や勘に頼らず、データに基づいた的確な意思決定が可能になります。
ABC分析をするメリットは、売れ筋メニューの把握による売上アップ、適切な発注と廃棄削減による在庫管理とコスト削減、さらには顧客ニーズへの対応による顧客満足度向上などです。
まずは自店舗のデータを集計し、ABC分析を継続的に活用して、分析結果を具体的な施策につなげることが、飲食店を次のレベルへ引き上げる鍵となります。